書籍『砂の女』

新潮文庫の100冊 2018年版を読む(18冊目)。

未読の自分にすすめる?

あらすじ

砂漠に飲み込まれていくゴーストタウンをご存知でしょうか?
本の舞台は砂に飲み込まれそうな村です。
ただし場所は日本のある部落、砂漠ではなく砂丘です。

砂に飲まれかけている部落に、昆虫採集が趣味の男がやって来た。男は部落の者の策略により、砂の穴に軟禁されてしまう。穴は深く、砂地獄のようで、よじ登ることはできない。
男は、部落が砂に飲まれるのを阻止するために、 砂の底でひたすら砂を掻き出す仕事を強制される。

ただし、 穴の底には家があり、未亡人が一名住んでいる。男は一人ではない。

ロビンソン・クルーソーのように工夫に満ちた不自由ライフではなく、男と女の関わりと、希望と絶望が語られる物語です。

すすめる?

砂の底に軟禁されて、ひたすら砂を掻き出すことを求められるという、荒唐無稽な物語にもかかわらず、現実味を感じる本です。
男の感じる絶望は、非常に大きく感じられるのにも関わらず、あいまいな物であり、まさに現実の絶望そのもの。

そして内容も、男が脱出できるのか?と、気になる展開で、ページを捲る手が先を急ぎます。

ただし、比喩表現が多く、完全に理解したければ気を張って読まなければなりません。
この比喩表現が、分かりやすさを求めた比喩ではなく、情緒を出すための比喩であるため、非常に分かりにくい。少し、イライラするかもしれません。
そんなときは、なんとなくの流し読みでも感じ取れるものがあります。
気にせずに読み進めてください。

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既読の自分と語らう

男の面倒くさい思想と、最後の選択、あとは解説が気になったので語りたい。

男の思想と比喩

この穴に閉じ込められた仁木順平という男。非常に面倒くさい性格の持ち主です。
付き合っている女性に、理屈っぽいと言われたことがあるそうですが、私もそう思う。
仁木はまさに、理屈っぽい男の典型です。
そして理屈っぽさと愚かさは同居できる。

こんな理屈っぽくて愚かな男が、自身の越えられない大きな壁にぶつかった時はどう行動するか?
まずは怒り、相手を批判する。そのあとにに努力する。しかし、努力の間も失敗したときの言い訳を用意する。

そう考えてみると、本書の面倒くさい比喩表現にも納得がいきます。
男が本来自分が目指していると考えている穴からの脱出。この目標からそれて、環境に屈したときに、比喩表現が飛び交い始めるのです。つまり、七面倒くさい比喩表現は、男の惰弱でプライドが高い精神が生み出した言い訳ということです。

私だったら、黙って実験を重ねるか、とっとと諦めそうです。

男の選択と自由

最後、男は縄梯子を手に入れた。
どこへでも行く権利を手にした。
自由だ。

しかし権利を行使することなく、穴にとどまった。
男は、過去の生活から失踪した。

きっと男は自由が欲しかったのだ。
選択する自由を手にした今、男に穴から離れる必要はない。

もともと、男が戻りたいと考えていた生活は、昆虫採集で逃避したくなるほどに逃れたい生活だったのだ。
しかし、逃げたかった生活に戻ることができなくなったら、戻りたくなった。
そして、縄梯子を手にして戻れるようになったら戻りたくなくなった。


手に入らないからこそ輝いて見えたのか?
私は少し違うように感じる。

私が感じたのは選択肢の力です。
例えば、仕事が嫌で仕方ない人が、安定的な不良所得を手に入れたら? きっといつ辞めてもいい仕事は、前よりも嫌ではなくなっているはずです。

男は、過去の生活からは穴に逃げ込むことができ、穴からは過去の生活に逃げ込むことができる。
だからこそ、彼は穴に留まったのだろう。

解説の感想

本書の解説を読んだ最初の感想は、「酷い解説だな」につきます。
引用ばかりで、何を言うでもありません。
文体についても、比喩が多いなど解説されずとも、本文を読んでいれば嫌というほどわかります。

いったい、こんな稚拙な解説を書いたのは誰だ?

と思って名前を見ると、なんとドナルド・キーンさんではないですか。

そんな馬鹿な。
キーンさんと言えば押しも押されぬ文学者。
それでは、私の解説の読み方が悪かったのか?

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