書籍『絶望名人 カフカの人生論』

動機

新潮文庫の100冊 2018年版を読む
15冊目

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内容

カフカの手紙や日記から抜粋された名言集。
ただし、名言というにはあまりに後ろ向きすぎて、名言集といっていいのかわからない。

すすめる?

落ち込んでいるときに明るい名言を言われても迷惑なだけだ。
という話はたまに聞く。
確かに、失敗したときに成功者の発言を聞いたところで元気になる人は少なそうだ。

本書のカフカはただただ暗い。
でもその暗さが逆に笑えてくる。
カフカ的な重さもなく、気構えする必要なく手に取れる。

感想

文学について

カフカのどこまでもネガティブな性質が滲み出ている。
カフカの書く暗い文章はそういう作品だったわけではなく、カフカの内面が出ていたのだな。
私は知らなかったのだが、疾病利得と言われるものがあるらしい。
風邪を引いたが、仕事を休めるといういい面もあるというあれだ。
カフカは結核の病理利得で幸せになっている。
時代的に死の病だったであろう結核で幸せになっているのだ。案の定結核で死んでいるし、それで幸せになれたのだから筋金入りのネガティブさだ。

ただ、カフカはこうも言っている。

いったい何のために本を読むのか?君が言うように、幸福になるためか?やれやれ、本なんかなくたって、僕らは同じように幸福でいられるだろう。いいかい、必要な本とは、この上なく苦しくつらい不幸のように、自分よりも愛していた人の死のように、すべての人から引き離されて森に追放されたときのように、自殺のように、僕らに作用する本のことだ。本とは、ぼくらの内の氷結した海を砕く斧でなければならない

カフカ

名作と言われ、後世に残る物や文学に暗く面倒なものが多いのは、これが理由だったのか。
確かに人の暗い部分を打ち破るには暗い文学が必要なのかもしれない。
その点ではカフカはまさに文学的だ。毒にも薬にもならぬものではなく、薬でなくてもせめて毒にはなる。

個人的には、歌って踊れる文学者がいてもいいとは思うけど。

もっともカフカ自身は自分が文学に向いているとは考えてはいないようだ。
下手の横好きと思っていたのかもしれない。
それでも自分に一番まともにできるのは文学だとひたむきに信じていたようだ。

世の名言たちへの疑問

本書を読んでふと思ったことがある。
本書に並んでいる名言ともいえるカフカの思考のほとばしりたちは、どのような状況で言われたのかが分かりやすい。
カフカはただ絶望していただけで、それを日記やら、父への抗議の手紙に書きつけていただけだ。

一方で、世の中の名言たちはどのような状況で言われたのかがよくわからない。
いかにも名言になりそうな、狙って言っているとしか思えないものもある。

演説の中で言われていたのだろうか?
それもと、名言を残す人々は、普段から面倒くさい話し方をする人たちだったのだろうか?

私は天邪鬼的な性質があるから、世の中の名言が響かないのはそのためなのかもしれない。
名言にならんとして狙って言われた言葉よりも、ほとばしり出てしまった言葉の方が響くでしょ?

その他雑記

本書が新潮文庫の100冊に入っていてよかった。
きっかけがなかったら私は絶対に手に取らない本だ。
読書という狭い経験の中ではあっても、自分の世界が広がってよかった。

本書は解説がいい味を出していた。
解説が何のために入っているのか分からない本も多いが、本書は解説が楽しさを引き出している。

とくに43番目の、「仕事をなまけているのではなく、怖れている」の解説の布団の例などは素晴らしくわかりやすい。

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